お侍様 小劇場 extra

   “楽しいお出掛けvv” 〜寵猫抄より


天高く、馬肥ゆる秋とは よく言ったもので。
収穫の秋には美味しいものもいっぱい出回る。
夏の陽を受け、大雨にも耐え、
何より、農家の方々の頑張りを受けることで、
たっぷりと栄養を蓄えて。
梨に柿に栗に、
ブドウにイチジク、みかんにリンゴ。
サンマに小芋、ゴボウに白菜、カブに大根。
マツタケやキノコに、大豆や落花生。
忘れちゃいけない新米などなど…と来て。

 「お芋掘りなんて何年振りですかねvv」

勘兵衛が運転して来たセダンを、
お家の前へと停めさせていただいたものの。
お客人の片やがなかなか外へと出て来ないので。
待ち兼ねていたお友達の偉丈夫さん、
おややぁ?と、小首を傾げて待っておれば。

 「さあさ、起きた起きた。」

お膝で寝こけていた二人のおちびさんを
ゆるゆると揺すぶり起こした白皙美貌の秘書殿のお声がし。

 「にゅう〜。」 「みゅうにあ。」

日頃はぱっちりなお眸々も、まだ半分も開き切らず。
どこか輪郭も曖昧な、甘いお声を出す小さな家族二人。
居眠りのせいでだろう、
体温も上がっての ぬくぬくなのを、余裕でひょいと懐ろへ抱えると、
頭上に注意しいしい車外へ出る七郎次であり。
女性ほど小柄ではないとはいえ、動作の機敏さもあってのこと、
両手が塞がっていようと さほどもたつかないまま。
秋の陽射しに金絲の髪をきらめかせつつ、
いい風の吹き渡る外へと出てしまえば、

 「 ……みゃあ?」
 「にゅうみぃ?」

何をか拾えたか、
小さな仔猫二人が“あれれぇ”とその小鼻をせわしく震わせる。
思わず天へと向け、くんくんすんと彼らが何かを感じた正体は、
柔らかに耕されている土の匂いであり。
あれあれれぇと、小さな頭を巡らせて周囲を見回せば。
遠くの電線以外、どこにも目立つよな背の高い建物のない、
ずっとずっと平たいばかりなところだと判り。
確かに“お出掛けだよ”と言われて車へ乗り込んだ彼らであり、
窓の外、見慣れた町並みがどんどんと遠ざかっていったのも、
ちゃんと把握はしていたけれど。
ぬくぬくな車内だったものだから辛抱たまらず、
途中から くうすうと
いい匂いのするおっ母様のお膝で
寝入ってしまった仔猫さんたちだったので。
いつの間にこんなところにいるのかが、
何だかちょっぴり、理解がついて来てなくて。

 「みゅうみゅ?」

小さなクロちゃんが何度も何度も小首を傾げ、

 「みぃにゅ?」

真っ赤な双眸、きょろんと瞬かせ、
こちらを覗き込んでいるばかりな七郎次おっ母様へ、
“此処ってどこ?”と、
小さな顎をのけ反らせ、久蔵坊やが目顔で問うておれば。

 「おお、よう来なさったな。」

先をゆく勘兵衛へと、まずはのお声を掛けた人があり。
聞いたことのないお声に、
誰だ誰だとお耳を震わせ、小さな二人が前を見やれば。
壮年にしては結構 背の高い方なはずの勘兵衛よりも、
その姿の頂上から頭の先が出るほども大きい誰かが、
そこには立っておいでだったようで。

 おじしゃん、誰だろ?
 ん〜ん、ちらにゃい、と

小さな家人らがあどけなくも小首を傾げ合うのを抱えたまんま、
七郎次もまた、彼らのほうへと小走りになる。

 「お久し振りです、ゴロさん。」
 「おお、久しいなシチさんや。」

掛けられた声へと、殊更 にっかと笑ったのは、
ようよう陽に焼けた浅黒い肌の偉丈夫で。
がっしりと頼もしい筋骨をしてはいるものの、
年の頃は勘兵衛とさして変わらぬくらいだろうか。
髪が白っぽいのは年相応の白髪かと思いきや、
もっとずっと若いころから、
わざわざこの色合いに染めてらしたという銀色なのだとか。

 「七郎次殿が此処へと来るのは何年振りになるかの?」
 「そうですね、5年以上にはなるかも。」

  勘兵衛様がお忙しくなって、
  あんまり出歩けなくなりましたからね。

  おいおい、儂のせいだと言うのか、と。

軽妙に交わされる会話が
欠片も理解できない訳ではなかったものの。
それ以上に関心のあるものが、
視野へと飛び込んで来ていたものだから、
何でだか それどころじゃなくなったメインクーンちゃん。

 「みゃっ、みゃうにゃっ。」
 「あ、そうそう。この子たちを紹介しなくては。」

小さなお手々を前へと繰り出し、
向かい合う格好になっていた偉丈夫へ、
まるで“ねえねえねえ”と
呼びかけるような声を出す金髪の坊や。
相手からは…モヘアをふんわり丸めたような、
キャラメル色の毛並みをした
メインクーンに見えていよう仔猫を見下ろして、

 「この子は久蔵。
  それから、こっちの子がクロちゃんっていうんです。」

もっと小さい仔猫の弟分は、つい最近加わったばかりですがと、
それでも自慢げに、満面の笑顔で引き会わせれば。

 「おお、そうかそうか。」

大きな手で…頭どころか首全部をくるんとくるみ込んでの、
順番に“いい子いい子”と豪快に撫でてくれた、
何ともざっかけないお人。

 「トイレの躾けは済んでおろうな。」
 「ええ、大丈夫。」

何しろと見回した四方八方、全てが土の大地だから…と
何かしらを言いたげな素振りを示した銀の髪した壮年殿、

 「某の方では特に構いはせぬが、
  本物の土を掻き回すのを覚えてしまうと、
  市販の猫砂トイレに見向きもせぬよになるらしいからの。」

 「ゴロさん、
  芋掘りに来たってのに のっけにそれはないです。」

万が一の猫の粗相も、気にしないという言いようから察するに、
どうやら、此処で作っているもので
生計を立てているお人じゃあないらしく。
雄々しい体格をしてなさるのも、

 「道場では5本に2本しか取らせてもらえぬが、
  芋や梨作りでは負けとらんぞ。」

ふっふっふと笑って、
分厚い手のひらでもって
並んで歩き始めた勘兵衛の肩を、
どやしつけるように叩いたそのお人。
これでも剣道界では名の通った武人であり。
してまた、

 「ついでにお店の切り盛りも、でしょう?」

頭上の空にも負けないほど澄んだ青をたたえた双眸、
悪戯っぽい微笑いようでたわめて見せる七郎次なのへ、

 「いやん、昼間にその話は出しちゃあダメだったら。」

野太いお声で、いきなりしなを作られて、

 「〜〜〜〜〜〜、、、、」×2

思わず おおおと、
小さな仔猫らが揃って尻尾を膨らませてしまったのは、
何とか気づかれなかったようだったものの、

 『相変わらずですよね、ゴロさんのママっぷり♪』
 『その話題は店以外ではタブーだというのも、怪しいものだ。』

そう、
随分と以前にちらりと出しただけなので、
覚えておいでの方がおいでだろうか不安だが。
こちらの壮年殿、実は会員制の女装クラブを経営しておいで。
昨今はそういった嗜好も随分とオープンになってきたせいか、
お店の繁盛っぷりもなかなかのものだとかで。
多少なりとも嫋やかだとかいうタイプじゃあない。
むしろ、先にもご紹介したように、
勘兵衛に勝るとも劣らぬ、
そりゃあとっても男らしい風貌をなさっているのに、
そういういで立ちもまた、妙に はまっておいでで。
コミカルなクラブかと からかい半分に入った客人が、だが、
出てくる料理も交わされる話術も、
途轍もなく上等高度なことへ舌を巻き、
己を顧みての恥をかく前にと、尻尾を巻いて逃げ出すか、
若しくは常連になってしまう不思議なお店なんだとか。

  とはいえ

こうまで健やかな、陽なたの匂いや土の匂いがいっぱいなところでは、
そんなお茶目も一瞬の冗談ごとにしか見えはしない。
一息入れなされと勧められたが、
いやいや、それは昼餉どきでよしと、
早速のこと、
腕まくりをして畑の畝へと向かった勘兵衛だったのへ、

 「にゃあvv」

クロがぴょいと七郎次の腕から飛び降りての、
ちょこまかと追従したのが何とも微笑ましかったが。

 「みゅうにゃあ、にぃ。」

久蔵の方は、一体 何が気になるものなやら。
五郎兵衛さんというおじさんの足元へ
とたとたと駆け寄ると。
その後ろへと何とか回ろうとばかりして。

 「ん? 何だ何だ?」

某の後ろを取ろうとは、なかなか油断のならぬ小僧だのと、
さすがは達人ということか、
一緒になってぐるぐる回り、
ともすりゃ むきになって背中を見せない五郎兵衛さんなのへ、

 「これ、久蔵。」

およしなさいと止めかかっていた七郎次も、
あんまり可愛らしい 変則の追い駆けっこに、
しまいにはお腹を抱えて吹き出した始末…だったのだけれど。

  皆様には、もうお判りですよね?

  《 何でゴロベさん、お尻尾なかったのかにゃ?》
  《 にゃ?》

カンナ村においでの、
大猫のゴロベエさんとあまりにそっくりだったので、
てっきり同じ人かなと、勘違いをしちゃったらしくって。
この取り違えの答え合わせには 数日ほどかかってしまう、
久蔵ちゃんにだけやって来た、秋の椿事だったのでありました。





   〜Fine〜  2011.10.08.


  *そういや、向こうのゴロさんは猫だったなぁと思い出し、
   まだご対面してなかったこっちのゴロさんと出会ったら、
   久蔵ちゃん、混乱しないかなと思いましてvv
(笑)

  *それはさておき、(こらこら)
   カンナ村からいただくお芋も、
   それは甘くて大好きな七郎次おっ母様でしたが、

   「お料理に使うのは何だか勿体なくって…。///////」

   お芋は種類や産地によって風味が違うと、
   力説なさっただけはあり。
   ほくほくタイプのお芋と言えばと、
   こちら様を思い出したらしい、
   めっきりと主夫っぷりも板についちゃったらしい
   七郎次さんなようでございます。(う〜ん)

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